2020年12月02日

海人族の古代史――非常民の民俗学への懸け橋

海人族の古代史

 昨日、元「新潮」の編集長の前田速夫さんから『海人族の古代史――非常民の民俗学への懸け橋』(河出書房新書)が送られてきた。
 以前書いたように、『海人族の古代史――非常民の民俗学への懸け橋』で、拙著『穂国幻史考』及び『牛窪考』での言説を引用しているからだ。
 『海人族の古代史――非常民の民俗学への懸け橋』、タイトルからして私の興味を引くものであるが、その目次から内容はさらに魅力的なものだ。ざっと目を通したが、私には頷く点が多い名著である。
 私の言説についての引用は、『海人族の古代史――非常民の民俗学への懸け橋』の152P及び153Pにあり、その内容は以下の通りだ。

  もう一つは、持統太政天皇最晩年の三河行幸である。一か月もの長期間、持統は三河で何をしていたのか。私の知人で「穂国幻史考」の著者である地元の郷土史家柴田晴廣氏は、反朝廷勢力の征討であったと大胆に推理するが、後年の「延喜式神名帳」(九二七)を見ても、式内社数が伊勢国二百五十三座、尾張国百二十一座に対して、三河国は二十六座と極端に少ないことを考えると、その可能性は高い。
  この柴田氏は、狭穂彦王の妹狭穂姫が垂仁天皇の皇后になった翌々年に、出雲神宝献上事件が起きて、出雲振根(ふるね)が殺害され、その十三年後、狭穂彦・狭穂姫の乱が起きていることと関連付けて、出雲振根=丹波道主と仮定すれば、丹波道主王=狭穂彦王の仮説も成り立つとして、狭穂彦王の弟袁耶本王は、迦具夜比売と狭穂彦王との間に生まれた袁耶弁王(おざべのみこ)であったと主張する。
  こうなると、本牟津別王=朝廷別王ということも考えられ、穗国の祖とされる穂別は、朝廷別王が祖であることから、一挙に丹波と結びつく。天武・持統を頂点とする王権側が、依然海人族の動向に注意を払っていたことを思うと、私はそう突飛な考えだとは思わないのだが、どうだろうか。
  付け加えるなら、柴田氏の三千頁を優に超える新著「牛窪考」で、氏は祖父が地元の香具師の頭をしていたことに関連して、香具師(やし)の名は香具山の香具に由来するとし、映画「男はつらいよ」でフーテンの寅さんを演じた渥美清の芸名も渥美半島の出身だったことにちなんでいると書いている。後述するが、渥美は安曇族東上の際の拠点だったことを明かす地名だから、つくづく海人族との縁は深い。

 750頁にも及ぶ『穂国幻史考』や現在3200頁余りの『牛窪考(増補改訂版)』での言説を簡潔にまとめて紹介していただいた前田速夫さんに感謝する。
 なお三千二百頁を超す『牛窪考』を簡潔に要約したものであるから、若干の補足をして置けば、渥美清、本名田所康夫は、昭和三(一九二八)年、地方新聞記者の友次郎と元小學校教諭のタツ夫妻の次男として東京市下谷区車坂町(台東区上野七丁目)で生まれた。渥美が生まれた車坂町の東隣は乞胸頭・山本仁太夫とその配下が居住していた三大貧民窟の一つ下谷万年町(台東区東上野四丁目及び北上野一丁目)。渥美という芸名は渥美半島から採ったという。
 大した知識もない山田洋次は、渥美の出身地に隣接する非人の居住地と、浅草溜の非人頭で渥美出身の車善七からの連想で、車寅次郎の名前を思いついたのであろう。非人と露天商は素の出自も誕生の経緯も全く異なる。大した知識もないとはこのことだ。
 のちに山田は、当初姓に考えた「轟」が物々しいことから、「轟」の一字をとって姓は車に、寅は落語の熊さんから転じたもので、さらに次男だから次郎を付けて寅次郎としたと、鼻がもげた象をひしゃいたような顔の無脳のバカ象や貧相な子泣き爺カスの答弁と同様、説明になっていないものだ。
 こうした露天商についての知識のなさは山田一人に限ったものではなく、祖父からいろいろと話を聞いている私からすれば、露天商についての研究書なども出鱈目なものだ。
 いわば、祖父は博徒と一即多になるのを嫌い露天商の親方をやめたが、露天商について言及した研究書のすべてが、祖父のいう博徒と一即多になってからの似非露天商からの聞き取りばかりだ。
 そんなことから、上述の渥美の件を始め露天商について『牛窪考(増補改訂版)』拾遺五「検証 東三河の徐福伝説」の補遺「非農耕民はなぜ秦氏の裔を称するのか」の最後の項「三島神と鳶澤甚内――火明命を中心とした海人の世界」で詳しく言及した。



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