2022年02月19日

『穂国幻史考(増補新版)』の手引き1(第一話はしがき~序)

 第一話「はしがき」では、まずなぜに改訂をしたかを説明した後に、主に各稿のあらすじを、「あとがき」では、主に各稿で導いた結論を中心に記した。そして「モノローグ」と「エピローグ」は、二〇〇七年刊行した『穂(ほ)国幻(こくげん)史(し)考(こう)』の「はしがき」と「あとがき」を援用した。『穂(ほ)国幻(こくげん)史(し)考(こう)』の「はしがき」と「あとがき」は、主に『穂(ほ)国幻(こくげん)史(し)考(こう)』の第一話「記紀の成立と封印された穂国の実像」を意識して書いたものであり、『穂(ほ)国幻(こくげん)史(し)考(こう)』の第一話「記紀の成立と封印された穂国の実像」と、『穂国幻(ほのくにげん)史(し)考(こう)(増補新版)』の第一話「記紀の成立と封印された穂国の実像」は、原文を追加するなどの加筆はしてあるものの、その内容に大きな変わりはないからである。
 その「モノローグ」で引用したのが、「是より東は蝦夷が島を界として……是より西は淡路島を界として……」の一節を有す菟(う)足(たり)神社(豊川市小坂井町字宮脇)の「田祭り唱え事」である。その菟足(utari)は、アイヌ語で同朋を意味する。「記紀の成立と封印された穂国の実像」の舞臺となる穗國とは、こういう土地柄なのだ。

 序「穗國とは」の「穗國(ほのくに)」とは、東三河の寶飯郡と設樂郡を中心とした地域を指す。
『續(しょく)日(に)本(ほん)紀(き)』卷六和銅六(七一三)年五月癸亥朔甲子(二日)條には、「畿內七道諸國郡 鄕名 著好字」とあり、「延喜式」卷二二民部上に、「凡諸國部内郡里等名 并用二字 必取嘉名」とある。いわゆる「佳字二字令」といわれるものだ。
 この「佳字二字令」により、穗(ほ)は寶飫(ほお)と、木(き)は紀伊(きい)と、无耶志(むさし)は武藏(むさし)と、多遲麻(たぢま)は但馬(たぢま)と、漢字二字で表記されるようになる。寶飫は、後に「飫」の草書體と類似する「飯」と誤記され、やがて寶飯となる。先に穗國の説明で、その中心地域に、寶飯郡のみならず、設樂郡をも含めたのは、「延喜式」卷二二民部上に、延喜三(九〇三)年八月一三日に寶飯郡を割いて設樂郡を置く」旨が書き記されているからである。つまり穗の中心地域は、一級河川の豊川右岸(ただし本流の寒(かん)狹(さ)川(がわ)ではなく、宇連(うれ)川(がわ)右岸)ということになる。
 そして「佳字二字令」について載せる『續日本紀』卷六和銅六年五月癸亥朔甲子(二日)條は、続けて「其郡內所生 銀 銅 彩色 草 木 禽 獸 魚 蟲等物 具録色目 及土地沃塉 山川原野名號所由 又古老相傳舊聞異事 載于史籍亦宜言上 下令各國撰進風土記之命也 今尚存者 有五風土記 尚 其郡 鄕之名 若有不祥者 改著好字」と、「風土記」撰上の詔の記述を載せる。『古事記』が成立した翌年のことだ。實際、現存する「風土記」には、数々の地名由來譚が載っている。
 後述するように、私は『古事記』は、『日本書紀』のゲラ刷りと考えている。そして『日本書紀』は、史實を記し、後世に殘そうとしたものではなく、「創作」であると考えている。その創作をあたかも史實の如く語るのが、正史(六國史)である。

 さて、その穗の文獻初出は、和銅五(七一二)年撰上の『古事記』中巻開化條である。同卷同條は、「其美知能宇志王 娶丹波之河上之摩須郎女 生子 比婆須比賣命 次眞砥野比賣命 次弟比賣命 次朝廷別王 四柱 此朝廷別王者 三川之穗別之祖」であり、「六國(りっこく)史(し)」にその記載はない。
「穗別」の「別」は、後に國造となる氏族等に輿えられた姓(かばね)の一つである。
 穗國造の祖・朝廷(みかど)別王(わけのみこと)の父・美知能宇志王について、『古事記』中巻開化條は、「若倭根子日子大毘毘命……又娶丸邇臣之祖日子國意祁都命之妹意祁都比賣命 生御子 日子坐王……次日子坐王……又娶近淡海之御上祝以伊都玖天之御影神之女 息長水依比賣 生子 丹波比古多多須美知能宇斯王」と、開化――日子(ひこ)坐(ます)王――丹(たに)波比古多多須美知能宇斯(はひこたたすみちのうし)王――朝廷別王という系譜を載せる。


タグ :朝廷別王

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