2022年01月07日

ひらかな盛衰記

 今朝の投稿(https://tokosabu.dosugoi.net/e1216389.html)で、清樂『九連環』の替え歌について記し、昨日の投稿の末には、清樂『九連環』に関する過去の投稿のURL(https://tokosabu.dosugoi.net/e1170982.html)を記した。
 本日の新聞のテレビ欄を見たら、夜9時からのEテレ「にっぽんの芸能」で、『義太夫・ひらかな盛衰記』の「神崎揚屋の段」を放送するではないか。
 『ひらかな盛衰記』は、元文四(一七三九)年、大坂竹本座で人形淨瑠璃として初演、二代目竹田出雲(一六九一~一七五六)、三好松洛(一六九五~一七七一?)らによる合作の全五段の時代淨瑠璃。
 「神崎揚屋の段」は第四段。
 この「神崎揚屋の段」の「無間の鐘」の場面からヒントを得て、假名垣魯文(一八二九~一八九四)が、戲れで歌詞を附けたのが、「梅ヶ枝の手水鉢」だ。
 「無間の鐘」は、叩けば富を得るものの、來世では無間地獄に落ちるとされる鐘で、遊女・梅ヶ枝が、梶原源太景季のために、無間地獄に落ちるのを覺悟して「無間の鐘」に準えた鉢を叩いたところ、小判が降るのが、「神崎揚屋の段」の「無間の鐘」の場面だ。
 假名垣魯文は、『九連環』のメロディーに、「梅ヶ枝の手水鉢 叩いてお金が出るならば もしもやお金が出たときにゃ そのときゃ身請けをそれ頼む」との詩を載せたのだ。
 「無間の鐘」は、遠州菊川の空道上人が掛川の粟ヶ岳にあった曹洞宗の寺院・無間山觀音寺(掛川市東山)に懸けたといわれる。觀音寺は明治の廢佛毀釋により廢寺となり、粟ヶ岳には阿波々神社(掛川市初馬/天平八(七三六)年創建)のみが殘る。
 話を清樂『九連環』に戻せば、『九連環』傳來ルートには、〝清國寧波→長崎→上方→名古屋→江戸→各地〟のほか、〝寧波→遠州袖志が浦→各地〟のルートがあったという(曲亭馬琴(一七六七~一八四八)著『著作堂一夕話』)。
 遠州袖志が浦は、竜洋袖浦公園(磐田市飛平松)にその名が殘っており、寛政一二(一八〇〇)年、清國船「萬勝號」が、太田川河口の、現在はコーデロイの生産地として有名な福田(ふくで)漁港沖に漂着し、その乘組員から、福田の人々に傳わり、全国に傳播した。假名垣魯文もこの『九連環』流入ルートを踏まえ、同じ遠州の「無間の鐘」をモチーフにした「梅ヶ枝の手水鉢」の詩を附けたのだろう。
 牛久保にも福田からのルートで『九連環』が流入したのであろう。「梅ヶ枝の手水鉢」は、国府、御油、赤坂のお祭りでも奏でられる。国府、御油、赤坂の囃子車は、遠州の影響がみられる。寛政年間に赤坂陣屋が遠州中泉陣屋の管轄になったことからだろう。御油の新丁では、二人立ちの獅子舞を奉納するが、元々はこれは三匹獅子だったと考えられる。三匹獅子の太平洋側の西限は、掛川大祭で、瓦町が担当する「かんからまち」であるが、新丁の獅子舞は、これが傳わったのであろう。舞われてはいないが、国府の臨時祭には、大社神社の拝殿に緑二、赤一の三匹獅子用の獅子頭が飾られている。

 話は変わるが、私は若干ではあるが、吃音があった。それを治そうと、大学入学直後、池袋の演芸場に足を運んだ。何度も足を運ばずに、吃音は治ったが、落語を理解するには、芝居を知らなければならないということにも気づいた。
 学生時代であるから、金に余裕があるわけではないから、「大向こう」で、芝居を観た。若いということもあって、「大向こう」の見巧者の方が芝居の知識を教えてくれた。
 『假名手本忠臣藏』の各段は落語になっているし、先にURL(https://tokosabu.dosugoi.net/e1170982.html)を挙げた『眠る駱駝物語』は、落語の『駱駝の葬禮』を芝居に直したものだ。
 こうした落語や芝居の知識が『牛窪考(増補改訂版)』拾遺一補遺三「隱れ太鼓」考」の執筆に役立ったことはいうまでもない。上記の見巧者の方からの知識のみならず、建て替え前の御園座の演劇図書館で閲覧した書籍からの知識も大きかった。
 今回の投稿の内容は、『牛窪考(増補改訂版)』拾遺一補遺三「隱れ太鼓」考」のみならず、補遺一等でも使ってある。



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